コーラ白書
TOP 四季報 データベース 缶コレ 資料館 殿堂 検索 ヘルプ

この夏、エナジー系飲料がかなりホットだ。ドデカミンやライフガードなど古参エナジードリンクのリニューアルに加え、アクエリアスやカルピスなど新規参入も相次いだ。そしてコーラ市場でもエナジーを謳う商品が登場した。

今回は今が旬の 「エナジーコーラ」にスポットを当ててみたい。

同じ穴のムジナ

エナジードリンクの定義は曖昧で、一般的には疲労時や気合を入れるときのエネルギーチャージを目的とした炭酸飲料の総称とされる。中身はメーカーによってさまざまだが、ビタミンやカフェインなどの「効きそうな」成分を含むのが共通点だ。

日本では清涼飲料として扱われれるエナジードリンクは、医薬部外品である栄養ドリンク(ユンケルやチオビタ等)に比べ成分や効能表示で制限を受ける。しかし規制の緩い海外ではタウリンなど強い成分を含むものが存在する。

一方、コーラ飲料の起源は滋養強壮などを目的とした飲み薬。たとえば南米のコカを使ったコカ・コーラは発売当初には滋養強壮や二日酔いへの効能を謳っていた。ペプシに至っては酵素「ペプシン」を配合した消化薬という位置付けであった。

その後コーラ飲料は19世紀末に方針を転換し清涼飲料として進化してきたが、そのオリジナルのコンセプトはエナジードリンクと非常に近い。つまりコーラ飲料は100年前のエナジードリンクと言ってもよいだろう。

実際この二者には共通点も多い。例えばコーラナッツ抽出の名残であるコーラの象徴カフェインは、現在ほとんどのエナジードリンクに使用されている。この二つの飲料が融合し「エナジーコーラ」が生まれるのは必然の流れなのである。

偉大なる開拓者

エナジーコーラを語る上で忘れてはならないのは、1985年に発売されたJOLT COLAである。

この挑戦的な飲料が発売された当時、コーラにはコカ・コーラが提唱する「爽やかで、リフレッシングな清涼飲料」というイメージが定着していた。これに対しジョルトはカフェイン量を2倍に増やし、強烈な刺激を売りに市場に参入。おりしも北米は健康ブーム真っ只中。カフェインは悪者扱いされ、カフェインフリーのコーラが売れていた時代に、である。

しかしこの戦略は成功し、JOLT COLAは刺激を求める若者層の熱狂的な支持を得た。JOLTは従来のコーラと異なり、疲れたときや頑張り時の「気付け」として飲まれるようになった。このジョルトの成功は「エネルギーチャージ」という付加価値が市場で受け容れられることを示したのだ。

JOLTの成功から10年、1990年代後半にアメリカのコーラ市場で新たなムーブメントが起こった。大手の寡占だった市場に、中小の飲料メーカーによる高級コーラが次々と参入したのだ。中にはコーラナッツを使用したものや(註1)、複数のスパイスを醸造したものなど、コーラの原点回帰と言える商品が数多くみられた。

この時期の高級コーラは大きく2つに分類される。ひとつは砂糖やコーラナッツなどの高級素材を贅沢に使った「プレミアムコーラ」。もうひとつはガラナや高麗人参などのエキゾチックな材料を使用した「ニューエイジコーラ」と呼ばれるもので、JonesのやWHOOP ASS ENERGY COLAやMETROLABSのXTZ Colaなどがこれに含まれる。

サブカル的な雰囲気が漂う、ブーム初期のニューエイジコーラ。ドンキで販売されたことも。

短命に終わったプレミアムコーラに対しニューエイジコーラは若者に広がり、後のエナジードリンクブームの礎となった。

エナジードリンク時代の幕開け

北米でエナジードリンクが本格的なブームを迎えたのは2001年頃。アメリカの西海岸ではROCK STARやMONSTERなどの新生エナジードリンクメーカーが台頭。またタイの栄養ドリンク「Krating Daeng」を改良したエナジードリンク「Red Bull」が欧州を席巻、北米へも浸透していた。その刺激的なコンセプトは若者を虜にし、またたく間に全土に広がった

エナジードリンクが一般に認識されてくると、大手メーカーからもAMPやFireなどの新製品が次々と発売された。その結果エナジードリンク市場は大いに活性化し、北米で最も成長著しい飲料となった。

エナジードリンクが市場で一定の地位を得ると、各メーカーはゼロカロリーやフレーバー付加などの派生商品を市場に送り出した。なかでもROCK STAR社はエナジードリンクとコーラの相性の良さに着目。他社に先んじて「ROCK STAR ENERGY COLA」をリリースした。

一方、元祖エナジーコーラであるJOLT COLAは2005年に内容を一新、タウリンや高麗人参などを配合したよりエナジードリンク寄りのコーラへリニューアルした。一時代を築いたコーラもエナジードリンクのブームには勝てなかったのだ。

JOLT(左)とRed Bull Cola(右)の開封部。エナジーコーラにはユニークな蓋形状のものが多い。

2008年にはRed Bullが満を持してコーラを投入。このRed Bull Colaはコカの葉抽出物を使用ていることで話題となった。16種類もの天然材料を使ったその独特の味わいにはコアなファンが多く、またコカイン検出による販売禁止事件など話題に事欠かなかった。

一方、エナジードリンクによるコーラ市場の浸食を避けたいコカ・コーラとペプシは、自社のコーラブランドからエナジーコーラを発売することには慎重だった。しかしペプシは2007年が北米でゼロカロリーのエナジーコーラ「Diet PEPSI MAX」をリリース(現在はPEPSI MAXに改称)。また2009年にメキシコでレギュラータイプのエナジーコーラ「PEPSI KICK」を発売するなど、徐々に歩み寄りを見せている。

コカ・コーラからは今のところエナジーコーラは発売されていない。

エナジードリンク発祥の地

今最もホットな若者向け飲料、そんな世界でのエナジードリンクのイメージに違和感を持たれる向きも多いかもしれない。それは日本がエナジードリンク発祥の地であり、世界で最も成熟した市場であることと無関係ではないだろう。

戦後人気のあった液体のアンプル薬を、大正製薬が改良し「リポビタンD」として発売したのが1962年。その3年後には大塚製薬より炭酸入りの栄養飲料「オロナミンC」が誕生した。諸説あるが、このオロナミンCが世界初のエナジードリンクであると考えられる。

まさに小さな巨人。

オロナミンCは発売発売から46年を経て、累計200億本を売り上げるほどのロングセラーとなった。世代を問わず愛され(むしろオジサンの飲み物という印象もある)、また卵や牛乳によるアレンジ法まで開発されるほど国民的飲料として定着した。あまりにも市場が成熟した結果、日本のエナジードリンクのイメージと世界的のそれの間に大きな乖離が生じた。

エナジードリンクが開発された1960年代には、既にコーラ飲料は日本に存在していた。しかし舶来のコーラと日本生まれのエナジードリンクはカテゴリの異なる飲料と認識された。コンビニでオロナミンCとコカ・コーラの売り場が違う日本では、エナジーコーラという発想はなかなか生まれなかった。

そんな中、唯一気を吐いたのがチェリオであった。チェリオは1995年に(多分)本邦初となるコーラフレーバーのエナジードリンク「COBRA」を発売。カフェインやビタミンBに加えビタミンPや魚油抽出物(DHA)など20種類もの原材料を駆使した意気込みあふれる商品であったが、時代を先取りしすぎたのか姿を消してしまった。

その後日本でエナジーコーラが発売されたのは2011年、皮肉にも海外のエナジードリンクブームを受けての「逆輸入」となった。

ちなみに先述のRed Bullの元となった「Krating Daeng」は、元はリポビタンDの対抗商品としてタイのローカルメーカーが開発したものである。すなわち現在のエナジードリンクブームは大正製薬がなければ生まれていなかったのである。

  >> エナジーコーラ考 後編へ